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退職金は制度変更に伴いトラブルが多いのも事実です

日航年金決着 基金解散案がOB同意に即効 3日間で急増

◇SCANNER
◆「給付6割減」嫌う 削減同意3日で2000人増
日本航空による企業年金の削減手続きは大方の悲観論を覆し、12日、同意取り付けに成功した。給付水準の削減率は現役社員で53%、OBで30%に上り、日航再建に向け新旧社員が「応分の負担」を分かち合う構図だ。日航株が上場廃止の方向となったことで、株主も負担を強いられる。(経済部 滝沢康弘、本文記事1面)

■「超えたー」
12日午後1時時点の集計結果は、5991人。削減に必要な「3分の2」の5957人をわずかに34人上回った。
「ああー、超えたー」。基金から集計結果を知らされた社員が思わず声を漏らし、羽田空港に近い日航本社は、歓声より脱力感に包まれたという。
12月21日から始まった現役社員とOB双方への同意取り付け手続きでは、OBの出足が鈍かった。
現役については今月4日時点で早々と3分の2を超えたのに対し、同日OBは約3000人。9日になっても約4000人にとどまり、社内からは「期限の12日までに2000人近い上積みは不可能」との弱音が漏れた。
日航は、期限までに3分の2以上の同意が取れない事態を半ば想定し、22日まで期限を延長できる措置を盛り込んでおり、10日には実際に延長準備に入った。
ところが、ふたを開けてみれば、そこからの3日間で怒濤(どとう)の追い上げを果たしていたことになる。

■「禁じ手」
OBの一人は、その訳をこう解説する。「基金を解散するという話が、相当効いた」
日航の再建を主導する企業再生支援機構が、OBの同意を得られない場合、年金基金を解散させる方針を固めていた。そのことが連休中に表面化した。
日航がOBに示した計画では、給付水準の削減率は約30%だ。しかし、基金は積立不足額が2400億円を超えており、現時点で解散した場合、削減率は約60%に跳ね上がる。
日航もOBに送付した意向確認書の中で、「改定が実現しなければ基金の解散に至る可能性が高まる」などと記載していたが、機構の方針決定でOBの危機感は急速に高まった。
政府関係者の間からも、「機構の解散方針が明らかになったことで、年金がさらに少なくなることを恐れ、駆け込み的に同意書を送ったOBが多いのではないか」との見方が出ている。
ただ、年金制度の改定で、給付水準引き下げなど受給者に不利な変更をする際は、受給者が「任意に」同意したかどうかも大きなポイントだ。会社側が「脅し」ととられる行為をしたり、高圧的な態度をとったりすれば、任意性に疑義が残る可能性もある。
日航や機構のように解散をちらつかせる手法は、「非常時の対応」(関係者)とはいえ、「禁じ手すれすれ」との見方がある。

■ 一時金封じ
前原国土交通相は12日夕の記者会見で、日航がOBの同意取り付けに成功したことを紹介した。その上で「機構に対して、(日航の削減計画を)事業再生計画に盛り込むことをお願いし、前向きに検討するとの答えをもらっている」と述べた。
機構幹部はかねて、「年金削減は日航の自助努力によるのがベストだ。再建に向けた総意は大事にしたい」との意向を示していた。OBらは「今回の結果を重く見てほしい」と期待する声が上がっている。
一方、今回の手続きで反対したOBには、年金を現状の水準のまま一時金で受け取る権利が残された。政府内には、「公的資金が高水準の年金の原資に回れば国民の理解が得られない」との反発が強く、こうした一時金の給付を封じる手だてについてなお検討を進める方針だ。

◆「応分負担」株主恨み節個人・企業に損失
日本航空株の上場廃止が濃厚となり、「会社の所有者」である株主も負担を強いられそうだ。上場が廃止されれば、証券取引所での売買ができず、容易に換金できない。100%減資となれば、株式の価値はゼロとなり「紙くず」同然だ。
株主は既に、日航株価の下落で資産価値の目減りを余儀なくされている。
株価は12日、制限値幅いっぱいの先週末比30円安まで下げ、37円で取引が終了した。昨年1月13日の終値は200円で、1000株を保有し続けた人の資産価値は1年で20万円から3万7000円に減ったことになる。「航空券が半額で買える株主優待券目当ての 個人株主は、かえって損をした場合もある」(関係者)という。
日航の主要株主に名を連ねる企業では大幅な評価損が発生しているとみられる。
昨年9月末時点で約3%、約8042万株を保有して筆頭株主だった東京急行電鉄は、保有比率の引き下げを検討した模様だ。同社は、「個別銘柄についてはコメントできない。他の保有株同様、状況を見ながら売買について検討したい」と話している。仮に、現在も9月末と同数の株式を保有しているならば、価値は当時の106億円から30億円に急減したことになる。
日航はこれまでの経営悪化局面で、普通株より優先して配当を受けられる優先株も発行している。08年の増資では、3メガバンクや大手商社、石油元売りなど計14社が優先株を引き受け、約1500億円を調達した。優先株についても大幅な損失が生じる見込みとなっており、引受先からは「あの時の資金で再建するはずではなかったのか」との恨み節も聞かれる。

〈企業年金の削減に関する根拠法令〉
企業年金の減額手続きを定めた確定給付企業年金法は、施行規則6条1項で「給付の額の減額について、受給権者等の3分の2以上の同意を得ること」としている。
法的整理が行われた場合でも、年金債権は一定程度保護されるため、大幅な減額対象にはならないと見られる。これは、企業年金には賃金の後払いの性格があり、受給する権利は憲法が保障する財産権にあたるためだ。憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と定めている。

図=日航OBの同意取り付け成功で企業年金の削減率は縮小した
写真=羽田空港で運用が開始されたばかりの新管制塔の脇を離陸するJAL機(12日)=竹田津敦史撮影

[読売新聞社 2010年1月13日(水)]